March 23, 2008

DIASPORA

つい先日、3回目を読み終わった。
そして今また間髪入れずに4回目突入。
読めば読む程理解が深くなって、その度に新しい感動が増える「ディアスポラ」は、巻末の解説で評論家の大森望さんが評する通り、『疑問の余地なく、現在の地球上で最高のSF作家である』グレッグ・イーガンの最高傑作。

とにかくそのスケールの壮大さと言ったら、私がこれまで読んだSF小説なんて微々たるものだけど、その中でも文字通り次元を越えてもの凄いことになってるし、主要な登場人物達はすでに今ある私たちのような人間の形からはかけ離れているどころか、肉体すら存在しない知性ソフトウェアとして、ポリスと呼ばれる仮想空間で暮らしている。
人間のあらゆる機能を丸ごと電子的にシミュレートできるようになったために、人類の大半が死という制限を越えたポリスに《移入》してから何世紀も経った頃、《コニシ》ポリス内で市民が子孫をもてるようにする非知性ソフトウェア(プログラム)である〈創出〉が、後に自分をヤチマと命名することになる孤児を産み出すところからストーリーは始まるのだが、第一章はまるごとこの〈創出〉が、いかにして孤児を発生させ、その孤児が自我人格を持つように至るまでについてをあたかも本当にそんなことが可能であるかのように詳細に物語っていく。
第二章に入ると、成長した孤児ヤチマとその一番最初の友人の一人であるイノシロウという、同じく《コニシ》ポリス出身の市民を中心にストーリーは展開する。
イノシロウはディアスポラの登場人物の中で最も繊細で、殆どが理数系キャラなのに対し、唯一の芸術家キャラ。ヤチマに数学以外の可能性(おもしろいこと)を見せようと、《移入》が始まった後も地球上に肉体を持ったままに残った所謂肉体人と呼ばれる種族と接触するという冒険に誘うのだが、その出来事をきっかけにしてイノシロウの運命の歯車は大きく回り始める。
永遠とも言える時を生きられるポリス市民が持つ、完全なる自由意志が導いた結末。
本当に本当に切なくて、そしてこの章が私の一番好きな章でもあるのだけど、何度読んでも心が揺さぶられる。
第三章へ進むとその舞台は一気に宇宙へと移り、物理学的な小難しい話もたくさんあるが私には理解不能なので言葉通りに受け入れ、ただし情景描写は詳細に渡って語られているので、そこを想像する分には苦労しなくて済んだ。
素粒子ってそーゆうもんかー、ワームホールの幅ってソーユウ風に広がるのねー、フムフム。てな感じ。でも重要なのはそれを考えている人物達と、ポリス全体で何が起きていて何をしようとしているか(つまりワームホールを作って、より遠くの宇宙へ移動しようとしている)なので、物理学的なところが今イチ分からずともストーリーの面白みが損なわれることはないのです。
そして第四章。発動する《ディアスポラ》計画。一千のクローンが作られ、一千万立方光年の空間に飛び立った地球人の子孫たち。地球外知的生命体を求めて宇宙を進む彼らを待ち受けるものとは?そして進み続けた先には一体何があるのか?

ほら!もうめくるめく電脳(?)SFファンタジー!!
孤児ヤチマが自意識を獲得するようになるまでもドラマチックだけど、その後ポリスの住人達をそれぞれにクロースアップして、そのあらゆるタイプの出自が彼らの運命を大きく動かしていくさまは、舞台スケールこそ違っても人間に起こるドラマとは根本的には変わりない。

もちろんそんな文系ハードSF的要素とは逆に、いわゆる物理系ハードSF的(どっちにしろハードなのか…)な要素も半分くらい占めるのだが、自慢じゃないが私は物理という授業を学校教育で習ったことがありませんので、物語中の核をなす(架空の)万物理論であるコズチ理論や、空間の曲率、リーマン空間等々、何度辞書を片手に読んでもまったくもって意味不明な部分はある。でもそんな理解不能さを補って有り余る、私の心をくすぐるSFキーワードの数々──暗号書記、ワームホール、四次元立方体、価値ソフト(アウトルック)、界面ソフト(エクソセルフ)、移入、公共環境(フォーラム)、恒星間宇宙、クローン、etc...
そしてそれらのキーワードにさらなる輝きを持たせる名言の数々──

ヤチマはイノシロウと手のひらをあわせて、たがいのスナップショットを交換した。
ふたりはアトランタ居留地の境界を越えた。イノシロウが、「一時間ごとにアップデートするぞ」
「了解です」(第二章)

「なにがあったんです?自分になにをしたんです?」イノシロウは聖人のように微笑すると、両手をさしだした。それぞれの手のひらの中央に睡蓮の花が咲き、どちらもまったく同じリファレンス・タグを放った。(第二章)

ブランカはガラス状の平原とオレンジ色の空、そして雲を終了させた。闇の中で、輝く球を階層状に積み上げ、自分の隣で回転させる。それから界面ソフトに命じて、フォーマルハウトに到着する瞬間まで自分を凍結させた。
ブランカは光を見つめながら、報せをきいたガブリエルの顔に浮かぶ表情を見るときを待った。(第三章)

「移住したのか?上位宇宙へ?当然でしょ?アンドロメダをめざすよりも手近な脱出路なんだから」(第五章)

もし相手が市民でなければ、オペレーティング・システムのユーティリティを起動して徹底精査していいことになるのだが、まず相手に直接訪ねるのが、とりあえず礼儀のような気がした。
「おれは偶発事態対応係だ」(第七章)

物語が壮大であればあるほどクライマックスが静かに訪れるのは指輪物語でもそうだけど、この小説の結末の一節は、「あらゆる文学形式の中でSFだけが与えうる深い感動。そのもっとも純粋なかたちがここにある。」と巻末の解説では表現されている。
その感動は、なぜ自分はこんなにもSFモノに惹かれるのか、という問いに直結してると思った。

想像することが好きな全ての人に薦めたい。
SF好きには特に。
サイエンス・フィクションの全てがこの一冊に詰まってるのだから!

投稿者 elektr0pank : 2008年03月23日 03:35

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.f9k-a.com/cgi-bin/MT/mt-tb.cgi/214

コメント

ほんと、最高の本だと思う。また読みたいなー
薦められたことに感謝しております!

投稿者 くりす : 2008年03月24日 09:24

>くりす
薦めたいとか言いつつも、ほんと万人ウケする本じゃないから実際はあまり薦めてないんだ。日本じゃSF自体人気ないし。
でもクリスは狙い通りだったよ!

投稿者 3lektr0pank [TypeKey Profile Page] : 2008年03月24日 12:34

コメントしてください




保存しますか?